訓読 >>>
2510
赤駒(あかごま)が足掻(あが)速けば雲居(くもゐ)にも隠(かく)り行かむぞ袖(そで)まけ我妹(わぎも)
2511
こもりくの豊泊瀬道(とよはつせぢ)は常滑(とこなめ)のかしこき道ぞ汝(な)が心ゆめ
2512
味酒(うまさけ)の三諸(みもろ)の山に立つ月の見(み)が欲(ほ)し君が馬の音(おと)ぞする
要旨 >>>
〈2510〉赤駒の足は速いから、雲の中をすっ飛んで走り行くぞ。着いたらすぐにこの袖を枕にして寝よう。
〈2511〉こんもりとした泊瀬の山道は、滑りやすくて恐ろしい道です。私が恋しいからといって、決して焦らないでください。
〈2512〉みもろの山に出てくる月のように、早く逢いたいと思っていたあなたの馬が駆ける音がする。
鑑賞 >>>
2510は、女の許へ向かう男の歌。2511・2512は、男を待っている女の歌。2510の「赤駒」は、赤みがかった毛色の馬。「足掻き」は、歩み。「袖まけ」は、一緒に寝よう。2511の「こもりくの」は「泊瀬」の枕詞。「豊泊瀬道」の「豊」はほめ言葉で、「泊瀬道」は、奈良県桜井市初瀬と宇陀郡榛原町も間の峡谷の道。「常滑」は、水苔がついて滑らかになった石。2512の「味酒の」は「三諸」の枕詞。「三諸の山」はここでは三輪山。
物語のように場面が進行する美しい連作となっています。
当ブログ制作にあたっての参考文献
『NHK100分de名著ブックス万葉集』~佐佐木幸綱/NHK出版
『大伴家持』~藤井一二/中公新書
『古代史で楽しむ万葉集』~中西進/KADOKAWA
『誤読された万葉集』~古橋信孝/新潮社
『新版 万葉集(一~四)』~伊藤博/KADOKAWA
『田辺聖子の万葉散歩』~田辺聖子/中央公論新社
『超訳 万葉集』~植田裕子/三交社
『日本の古典を読む 万葉集』~小島憲之/小学館
『ねずさんの奇跡の国 日本がわかる万葉集』~小名木善行/徳間書店
『万葉秀歌』~斎藤茂吉/岩波書店
『万葉集講義』~上野誠/中央公論新社
『万葉集と日本の夜明け』~半藤一利/PHP研究所
『萬葉集に歴史を読む』~森浩一/筑摩書房
『万葉集のこころ 日本語のこころ』~渡部昇一/ワック
『万葉集の詩性』~中西進/KADOKAWA
『万葉集評釈』~窪田空穂/東京堂出版
『万葉樵話』~多田一臣/筑摩書房
『万葉の旅人』~清原和義/学生社
『万葉ポピュリズムを斬る』~品田悦一/講談社
『私の万葉集(一~五)』~大岡信/講談社