大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

この旅の日に妻放くべしや・・・巻第13-3346~3347

訓読 >>>

3346
見欲(みほ)しきは 雲居(くもゐ)に見ゆる うるはしき 鳥羽(とば)の松原 童(わらは)ども いざわ出(い)で見む こと放(さ)けは 国に放けなむ こと放けば 家に放けなむ 天地(あめつち)の 神し恨(うら)めし 草枕 この旅の日(け)に 妻(つま)放くべしや

3347
草枕(くさまくら)この旅の日(け)に妻(つま)離(さか)り家道(いへぢ)思ふに生けるすべなし

 

要旨 >>>

〈3346〉見たいものは、雲の彼方に見える 愛すべき鳥羽の松原。さあ、子供たちよ、出て見よう。同じ別れるなら、国にいる時に別れさせてほしい、同じ別れるなら、家で別れさせてほしかった。天地の神が恨めしい。この旅の間に、妻と別れさせるなんて。

〈3347〉この旅の間に妻と死別してしまい、家への道中を思うと、生きている気もしない。

 

鑑賞 >>>

 地方官などで妻子を伴って任地に赴いていた人が、任地で妻に死なれ、任期を終えて家に帰る途中の歌とされます。3346の「見欲しきは」は、見たいものは。「鳥羽の松原」は、各地にある地名のため所在未詳。「いざわ」は、さあ。「こと放けは」は、同じ放すのなら。「草枕」は「旅」の枕詞。「放くべしや」の「や」は反語。