大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

むささびは木ぬれ求むと・・・巻第3-267

訓読 >>>

むささびは木(こ)ぬれ求むとあしひきの山の猟夫(さつを)にあひにけるかも

 

要旨 >>>

むささびが、林間の梢を飛び渡っているうちに、猟師に見つかって獲られてしまった。

 

鑑賞 >>>

 志貴皇子(しきのみこ)の御歌。むささびは高い所から斜め下へしか飛べないため、木の枝に駆け上ってから飛び出します。そこを狙って猟師が射落とすわけですが、そうしたことから、この歌には、高い地位を望んで身を滅ぼした人、すなわち大津皇子(おおつのみこ)が天皇の位を望んだ(とされた)ために処刑されたことを喩えたのでは、という寓意説もあります。

 しかしながら、斉藤茂吉によれば、「この歌には、何処かにしんみりとしたところがあるので、古来寓意説があり、徒に大望をいだいて失脚したことなどを寓したというのであるが、この歌には、むささびのことが歌ってあるのだから、第一にむささびのことを詠み給うた歌として受納れて味わうべきである。寓意の如きは奥の奥へ潜めておくのが、現代人の鑑賞の態度でなければならない。そうして味わえば、この歌には皇子一流の写生法と感傷とがあって、しんみりとした人生観相を暗指(あんじ)しているのを感じる」。

 「あしひきの」は「山」の枕詞。山の足(裾野)を長く引いた山の像、あるいは足を痛めて引きずりながら登るの意で、山に掛かるとする説があります。