訓読 >>>
1044
紅(くれなゐ)に深く染(し)みにし心かも奈良の都に年の経(へ)ぬべき
1045
世間(よのなか)を常(つね)なきものと今ぞ知る奈良の都のうつろふ見れば
1046
岩綱(いはつな)のまた変若(を)ちかへりあをによし奈良の都をまたも見むかも
要旨 >>>
〈1044〉紅に色深く染まるように、心に深く染み込んだ奈良の都に、これからの年月を過ごせるものだろうか。
〈1045〉無常の世と思わずにいられない。この奈良の都が日ごとにさびれていくのを見ると。
〈1046〉岩に巻いた綱が元に戻るように、また若返って、栄えた奈良の都を再び見られるだろうか。
鑑賞 >>>
奈良の都の荒れた跡を傷み惜しんで作った作者未詳歌3首。都が恭仁京に遷った天平12年(740年)から同17年に再び奈良に遷都されるまで、奈良は古京となっていました。大極殿などが解体・移築されたため、平城京はあっという間に荒れてしまったようです。ここの歌は、荒墟となった奈良の都にとどまって目にし続けている人の作とみられます。
1044の「紅」はベニバナ。その花冠から採った汁を紅色の染料として用いていました。「かも」は反語。1045の「うつろふ」は、色が褪せる、衰える。1046の「岩綱の」は「また変若ちかへり」の枕詞。「岩綱」は岩に這う蔓性の植物。「変若ちかへり」は、若返る。「あをによし」は「奈良」の枕詞。