訓読 >>>
3630
真楫(まかぢ)貫(ぬ)き船し行かずは見れど飽(あ)かぬ麻里布(まりふ)の浦に宿(やど)りせましを
3631
いつしかも見むと思ひし安波島(あはしま)を外(よそ)にや恋ひむ行くよしをなみ
3632
大船(おほぶね)にかし振り立てて浜(はま)清(ぎよ)き麻里布(まりふ)の浦に宿(やど)りかせまし
3633
安波島(あはしま)の逢(あ)はじと思(おも)ふ妹(いも)にあれや安寐(やすい)も寝(ね)ずて我(あ)が恋ひわたる
要旨 >>>
〈3630〉左右の楫をいっぱいに取り付けた船が進まなければ、いくら見てても見飽きない、ここ麻里布の浦に泊まることもできたのに。
〈3631〉早く見たいと思ってきた安波島を、よそ目に見ながら恋うばかりなのか、そこへ行く方法がないので。
〈3632〉大船にかしを振り立てて、浜の清らかな麻里布の浦に船宿りすることができないものだろうか。
〈3633〉逢いたくないと思う妻であれば、どうしてこんなに私は安らかに眠ることもできず、恋い続けるばかりでいるだろう。
鑑賞 >>>
周防国(山口県東南部)玖珂郡(くがのこおり)麻里布(まりふ)の浦を行くときに作った歌。「麻里布の浦」は、山口県岩国市または田布施町付近の海。岩国市内に麻里布という地名がありますが、新しい地名なので、「麻里布の浦」とは決められません。3630の「真楫貫き」は、船の左右に楫を取り付けて。「楫」は、船を漕ぐ道具の総称。「ずは~ましを」は、反実仮想。3631の「いつしかも」は、いつになったら、早く。「安波島」は、山口県大島郡の大島(屋代島)か。3632の「かし」は、船を繋ぐために水中に立てる棒杭。3633の「安波島の」は「逢は」の枕詞。「恋ひわたる」の「わたる」は、ずっと~し続ける。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について