大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(20)・・・巻第14-3439

訓読 >>>

鈴が音(ね)の早馬駅家(はゆまうまや)の堤井(つつみゐ)の水を賜(たま)へな妹(いも)が直手(ただて)よ

 

要旨 >>>

駅鈴(えきれい)の音が聞こえる早馬のいる駅家の、湧き井戸の水を下さい、娘さん、あなたの素手で直接に。

 

鑑賞 >>>

 「鈴が音の」は、公用の時に馬に鈴を付けたところから「早馬」の枕詞。「早馬駅家」は官吏が利用する公用の馬を置く駅舎で、宮道のおよそ30里(約16km:江戸時代に定められた1里=約4kmとは異なる)ごとに設けられ、官人の宿所と食糧を提供する施設も兼ねていました。「堤井」は、湧水の周りを石や木で囲った井。「直手」は、手でじかにの意。

 この歌は、井で働く女、あるいは通りかかった遊行女婦に声をかけたという、宿場の宴での戯れ歌とされますが、作家の大嶽洋子は、「鈴の音、早馬、つつみ井、水を渡す美少女の白い手と言葉の躍動感とともに視覚的にも美しい」と評しています。

 「井」とは、水を得るための場所や施設を言い、生活用水だけでなく宗教的行事にも用いられました。いわゆる掘り抜き井戸のほか、川や池に設けられた水場や水が湧き出る場所なども、すべて「井」と呼ばれました。