大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

天の海に月の舟浮け・・・巻第10-2223

訓読 >>>

天(あめ)の海に月の舟(ふね)浮(う)け桂楫(かつらかぢ)懸(か)けて漕(こ)ぐ見ゆ月人壮士(つきひとをとこ)

 

要旨 >>>

夜空の海に月の舟を浮かべ、桂で作った楫を取り付けて漕いでいるのが見える、月の若者が。

 

鑑賞 >>>

 「月を詠む」歌。「月の舟」は漢語に由来する表現。「桂楫」も、月には桂の大木が生えているという中国の伝説に基づく語で、桂の木で作った楫。「月人壮士」は、月を若い男に譬えた語。巻第7の冒頭にある『柿本人麻呂歌集』からの「天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ」の歌と同想です。

 なお、現代の私たちにもお馴染みの月見の風習は、中国盛唐の時代に起こり、日本に伝わったのは平安期になってからです。万葉時代には、月は神秘の対象だったのです。