大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

秋の夜を長しと言へど・・・巻第10-2303

訓読 >>>

秋の夜(よ)を長しと言へど積もりにし恋を尽(つく)せば短(みじか)くありけり

 

要旨 >>>

秋の夜は長いと言うけれど、積もりに積もった恋心を晴らすには、何とも短く感じられる。

 

鑑賞 >>>

 男が、女と充実した夜を過ごし、夜明けに帰ろうとする時に詠んだ形の歌です。秋の夜長を詠んでいますが、古来、実りの秋、紅葉の秋は、日本人が最も愛した季節だったらしく、『万葉集』の季節歌でも、秋の歌が最も多くなっています。

 

作者未詳歌

 『万葉集』に収められている歌の半数弱は作者未詳歌で、未詳と明記してあるもの、未詳とも書かれず歌のみ載っているものが2100首余りに及び、とくに多いのが巻7・巻10~14です。なぜこれほど多数の作者未詳歌が必要だったかについて、奈良時代の人々が歌を作るときの参考にする資料としたとする説があります。そのため類歌が多いのだといいます。

 7世紀半ばに宮廷社会に誕生した和歌は、7世紀末に藤原京、8世紀初頭の平城京と、大規模な都が造営され、さらに国家機構が整備されるのに伴って、中・下級官人たちの間に広まっていきました。「作者未詳歌」といわれている作者名を欠く歌は、その大半がそうした階層の人たちの歌とみることができ、東歌と防人歌を除いて方言の歌がほとんどないことから、機内圏のものであることがわかります。