訓読 >>>
1665
妹(いも)がため我(わ)れ玉 拾(ひり)ふ沖辺(おきへ)なる玉寄せ持ち来(こ)沖つ白波(しらなみ)
1666
朝霧(あさぎり)に濡(ぬ)れにし衣(ころも)干(ほ)さずしてひとりか君が山路(やまぢ)越ゆらむ
要旨 >>>
〈1665〉妻のために私は玉を拾おう。沖にある玉をこの海辺まで届けよ、沖の白波よ。
〈1666〉朝の霧に濡れた衣を乾かすこともなく身につけたまま、あなたはひとり山道を今ごろ越えておられるのでしょうか。
鑑賞 >>>
斉明4年(658年)10月に、斉明天皇が紀伊の国に行幸なさった時の歌ですが、作者は未詳です。1665は旅行く夫の歌、1666は家で待つ妻の歌という組み合わせになっており、宴で詠まれた歌ではないかとみられています。「玉」は、海岸にある美しい小石や貝。それらが家に残る妻へのみやげとなったのは、海の霊威が宿るものと信じられていたためとされ、また、妻のために玉を拾うというのは、当時の官人にとって理想的な楽しさだったようです。