大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

我れなしに潜きはなせそ・・・巻第7-1253~1254

訓読 >>>

1253
楽浪(ささなみ)の志賀津(しがつ)の海人(あま)は我(あ)れなしに潜(かづ)きはなせそ波立たずとも

1254
大船(おほふね)に楫(かぢ)しもあらなむ君なしに潜(かづ)きせめやも波立たずとも

 

要旨 >>>

〈1253〉楽浪の志賀津の海人よ、私が一緒にいないときは水に潜るなよ。たとえ波が立たずに穏やかであっても。

〈1254〉大船に櫂が添っていれば、あなたがいない時に水に潜るものですか。たとえ波が立たなくても。

 

鑑賞 >>>

 「古歌集に出づ」という「海人(あま)を詠む」歌で、小舟で漁をする海人と、その安全を気遣う人との問答歌になっています。さまざまに解釈されるところですが、1253では「海人」を女に喩え、勝手なふるまいをしてはならないという男の意が込められ、1254では、女が「楫」を男に譬え、夫婦同棲を望んでいる歌としました。1253の「楽浪」は、琵琶湖の西岸一帯。「志賀津」は、大津市の港。「潜」は、水に潜って魚介などをとること。「なせそ」は、禁止。1254の「あらなむ」の「なむ」は願望。「せめやも」は、するつもりはない。