大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

み雪降る吉野の岳に居る雲の・・・巻第13-3293~3294

訓読 >>>

3293
み吉野の 御金(みかね)の岳(たけ)に 間(ま)なくそ 雨は降るといふ 時(とき)じくそ 雪は降るといふ その雨の 間(ま)なきがごとく その雪の 時じきがごと 間(ま)も落ちず 我(あ)れはそ恋ふる 妹(いも)が正香(ただか)に

3294
み雪降る吉野の岳(たけ)に居(ゐ)る雲の外(よそ)に見し子に恋ひわたるかも

 

要旨 >>>

〈3293〉み吉野の御金の岳に絶え間なく雨は降るという、 時を定めず雪は降るという。その雨が絶え間ないように、その雪が時を定めないように、いささかの間を置くこともなく、私は恋続けるだろう、いとしいあの子の姿に。

〈3294〉雪が降りしきる吉野の岳にかかっている雲のように、よそながら見たあの子に。私はひたすら恋い焦がれ続けている。

 

鑑賞 >>>

 外ながら見ている娘への恋心をうたった歌。3293の「御金の岳」は、吉野町金峰山(きんぷせん)で、山頂近くに金峰神社があります。間断なく雨や雪に接していることが聖なる山とされ、後には山林修行の聖地とされました。「時じく」は、時を定めず、時節に関係なく。「落ちず」は、残らず、もらさず。「正香」は、それしかないそのものから漂い出る霊力。じかに感じられる雰囲気。3294の上3句は「外に見し」を導く序詞。

 なお、3293は、壬申の乱を前にした大海人皇子天武天皇)が、吉野入りをした時の苦難の道行きをうたったとされる歌(巻第1-25)によく似ています。