訓読 >>>
3058
うちひさす宮にはあれど月草(つきくさ)のうつろふ心(こころ)我(わ)が思はなくに
3059
百(もも)に千(ち)に人は言ふとも月草(つきくさ)のうつろふ心 我(わ)れ持ためやも
要旨 >>>
〈3058〉華やかな宮仕えをしていますが、色のさめやすい露草のような移り気な心を、私は持っておりません。
〈3059〉あれこれと人は噂をまき散らしますが、露草のように移り気な心など、決して持つものですか。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」2首。いずれも女の歌です。
3058は、宮中に女官として仕えている女が、夫に対して貞節を誓っています。多くの男性がいる宮中に女官が立ち混じっていると、色々と男女の問題が生じていたようです。「うちひさす」「月草の」は、それぞれ「宮」「うつろふ」の枕詞。「月草」は露草(ツユクサ)の古名。露草で染めた布はすぐに色褪せるため、移ろう恋心に例えられました。
3059も、妻である女が、その夫に貞節を誓っています。この時代の夫婦は別居していましたから、夫のいる女とは知らずに、言い寄ってくる男は少なくなかったとみえます。「百に千に」は、あれこれと、なんだかんだと。