大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(21)・・・巻第14-3386

訓読 >>>

にほ鳥の葛飾(かづしか)早稲(わせ)を饗(にへ)すともその愛(かな)しきを外(と)に立てめやも

 

要旨 >>>

葛飾の早稲を神に捧げる新嘗祭の夜であっても、愛しいあの人を外に立たせておくことなどできない。

 

鑑賞 >>>

 下総の国の歌。「にほ鳥の」の「にほ鳥」はカイツブリで、魚を獲るために水に潜(かず)くことから同音の「葛飾」にかかる枕詞。「饗す」は、神に新物を捧げることで、ここでは秋の新嘗祭。神を祭るのは選ばれた未婚の娘の役目とされ、家を清浄にし、家族でも家の内に入れるのを禁じたといいます。そこへ恋人が忍んでやって来たので、禁忌を犯すことになっても、空しく外に立たしておかれようか、と言っています。「愛しき」は、愛しい人。「やも」は、反語。「やも」は、反語。

 斎藤茂吉は、自分の恋しいあのお方というのを「その愛しきを」といっているのは、簡潔でぞくぞくさせる程の情味もこもりいる、まことに旨い言葉であると評しており、作家の田辺聖子は、放胆で無邪気な歌であるとして、「いったい『万葉集』の女人は、それ以後の女人が失ってしまったような強烈な自己主張を発揮していて、それもこの歌集を魅力的にしている理由の一つである」と言っています。