大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(23)・・・巻第14-3411

訓読 >>>

多胡(たご)の嶺(ね)に寄(よ)せ綱(づな)延(は)へて寄すれどもあに来(く)やしづしその顔(かほ)よきに

 

要旨 >>>

多胡の嶺に綱をかけて引き寄せようとしても、ああ悔しい、びくともしない、その顔が美人ゆえに。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国の歌。「多胡の嶺」は、多胡の地の山ながら所在未詳。「寄綱延へて」は、重い物を引き寄せる綱をかけて。「あに来や」は、どうして寄って来ようか、来はしない。「しづし」は語義未詳ながら、「静し」で「静けし」の方言と見る説があります。山がじっとして動かない意。「その顔よきに」は、その顔がよいことによって。男が、無理と思いつつ美貌の女に言い寄ったものの、まったく相手にされなかったことを自嘲しています。

 

東歌と防人歌について

 東歌や防人歌が、地方の歌、庶民の歌として選ばれ、類を見ない歌群となってはいるものの、東歌については、その作者はおもに豪族層とされ、また、すべての歌が完全な短歌形式であり、音仮名表記で整理されたあとが窺えることや、方言が実態を直接に反映していないとみられるなど、中央側が何らかの手を加えて収録したものと見られています。また、東歌を集めた巻第14があえて独立しているのも、朝廷の威力が東国にまで及んでいることを示すためだったとされます。

 防人歌については、防人制度の円滑な運用に向けた参考資料とするため、防人たちの心情を伝える記録として収集されたようですが、こちらも東歌と同様の理由で、役人の手が加わった可能性が高いと見られています。