大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(24)・・・巻第14-3412

訓読 >>>

上(かみ)つ毛野(けの)久路保(くろほ)の嶺(ね)ろの葛葉(くずは)がた愛(かな)しけ子らにいや離(ざか)り来(く)も

 

要旨 >>>

久路保の嶺の葛葉の蔓(つる)が別れて伸びていくように、愛しい妻といよいよ遠ざかって行くことだ。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国の歌。「久路保の嶺」は、黒檜岳を最高峰とする赤城山の古名とされます。「葛葉がた」は、葛葉の蔓。「愛しけ」は「かなしき」の東語。「いや離り来も」の「いや」は、いよいよ。愛する女を後に残し、防人などで、信濃路のほうへ向かって行く男が、途中、赤城の山を振り返り、その遠ざかったのを見て、別離の感を新たにしている歌です。

 東歌には、大きな地名に小さな地名を重ねた言い方をしているものが数多く見られます。ここの「上つ毛野」で始まる歌もそうですし、他にも「葛飾の真間」「信濃なる千曲の川」「足柄の刀比」「鎌倉の見越の崎」など、くどいとも言える地名表現が多々あります。地元の人たちが詠む歌の物言いとしてはかなり不自然であり、いかにも説明的であるところから、中央の関係者によって手が加えられたものと想像できます。