大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(25)・・・巻第14-3413

訓読 >>>

利根川(とねがは)の川瀬も知らず直(ただ)渡り波にあふのす逢へる君かも

 

要旨 >>>

利根川を渡る浅瀬の場所も分からないままむやみに渡り、だしぬけに波に遭ったように、思いがけずも逢っているあなたであるよ。

 

鑑賞 >>>

 上野(かみつけの)の国、利根川の上流地域で詠まれた歌。「知らず」は、弁えず、考慮せず。「あふのす」の「のす」は「なす」の東語。初めて女の許へ通って行った男が、思いがけずも女と結ばれたことを喜んでいる歌です。上4句は「思いがけず」の比喩となっていますが、女に逢う直前に、男が実際に経験したことでもあるようです。

 

東歌と防人歌について

 東歌や防人歌が、地方の歌、庶民の歌として選ばれ、類を見ない歌群となってはいるものの、東歌については、その作者はおもに豪族層とされ、また、すべての歌が完全な短歌形式であり、音仮名表記で整理されたあとが窺えることや、方言が実態を直接に反映していないとみられるなど、中央側が何らかの手を加えて収録したものと見られています。また、東歌を集めた巻第14があえて独立しているのも、朝廷の威力が東国にまで及んでいることを示すためだったとされます。

 防人歌については、防人制度の円滑な運用に向けた参考資料とするため、防人たちの心情を伝える記録として収集されたようですが、こちらも東歌と同様の理由で、役人の手が加わった可能性が高いと見られています。