大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

心はよしゑ君がまにまに・・・巻第13-3284~3285

訓読 >>>

3284
菅(すが)の根の ねもころごろに 我(あ)が思(おも)へる 妹(いも)によりては 言(こと)の忌みも なくありこそと 斎瓮(いはひへ)を 斎(いは)ひ掘り据(す)ゑ 竹玉(たかたま)を 間(ま)なく貫(ぬ)き垂(た)れ 天地(あめつち)の 神をぞ我(わ)が祈(の)む いたもすべなみ

3285
たらちねの母にも言はずつつめりし心はよしゑ君がまにまに

 

要旨 >>>

〈3284〉極めてねんごろに私が思っているあの子のことでは、何を言っても言葉の禍(わざわい)など起きないでほしいと、斎瓮を浄め、地を掘って据え付け、竹玉を隙間なく貫き通し、天地の神々に私はお祈りをする。ただ恋しくてどうしようもなく辛いので。

〈3285〉母にも言わず、包み隠してきたこの心は、もうどうなろうともあなたの意のままです。

 

鑑賞 >>>

 男と関係を結んで間もない女の歌。3284の左注に「今考えると、『妹によりては』と言うべきではない。正しくは『君により』と言うべきだ。なぜなら、反歌に『君がまにまに』と言っているから」との説明があり、作者は女だと言っています。

 3284の「菅の根の」は「ねもころごろに」の枕詞。「ねもころごろ」は、極めて懇ろに。「言の忌み」は、言葉による禍で、人が悪いことを言葉にすると、言霊によって忌むべきことが起こる意。「斎瓮」は、神に供える酒を入れる器。「斎ふ」は、祈って禁忌を守る。「竹玉」は、細い竹を輪切りにして紐に通したもの。「いたもすべなみ」は、どうしようもなく辛いので。3285の「たらちねの」は「母」の枕詞。「包めりし心」は、秘密にしてきた心。「よしゑ」は、どうなろうとも。「まにまに」は、ままに。

 

巻第13について

 作者および作歌年代の不明な長歌反歌を集めたもので、部立は雑歌・相聞・問答歌・譬喩歌(ひゆか)・挽歌の五つからなっています。