大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

国のはたてに咲きにける桜の花の・・・巻第8-1429~1430

訓読 >>>

1429
娘子(をとめ)らが かざしのために 風流士(みやびを)の 縵(かづら)のためと 敷きませる 国のはたてに 咲きにける 桜の花の にほひはもあなに
1430
去年(こぞ)の春(はる)逢へりし君に恋ひにてし桜の花は迎へ来(く)らしも

 

要旨 >>>

〈1429〉娘子たちの挿頭(かざし)のためにと、また風流な男子の髪飾りのためにと、天皇がお治めになる国の果てまで咲く、桜の花の色の何と美しいこと。

〈1430〉去年の春にお逢いしたあなたに恋い焦がれて、桜の花はあなたをお迎えするために来ているようです。

 

鑑賞 >>>

 「桜花の歌」。左注に、若宮年魚麻呂(わかみやのあゆまろ)が口誦したとある長歌反歌で、宴席で誦した歌のようです。若宮年魚麻呂は伝未詳ですが、よく山部赤人の歌に並んで載っていることから、赤人と何らかの関りがあった人かもしれません。

 1429の「風流士」は、風流を解する男子。「縵」は、頭に巻く植物の髪飾り。「敷きませる」は、天皇がお治めになっている。「はたて」は、果て、極限。「にほひ」は、色の現れる意。「はも」は詠嘆。「あなに」は、ああ、本当にの意の感動詞。1430の「逢へりし君」は、桜の花自身が逢った君で、桜の花を擬人化したもの。国文学者の窪田空穂は、「謡い物にふさわしい奇抜な言い方」であり、「新風を高度に示している」と言っています。