大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

貌鳥の間なくしば鳴く・・・巻第10-1897~1899

訓読 >>>

1897
春さればもずの草(くさ)ぐき見えずとも我(あ)れは見やらむ君があたりをば

1898
貌鳥(かほどり)の間(ま)なくしば鳴く春の野の草根(くさね)の繁(しげ)き恋もするかも

1899
春されば卯(う)の花ぐたし我(わ)が越えし妹(いも)が垣間(かきま)は荒れにけるかも

 

要旨 >>>

〈1897〉春になるとモズが草の中に潜んで姿が見えなくなるように、たとえお姿は見えなくとも私は遠くから見ていましょう、あなたの住んでいる辺りを。

〈1898〉貌鳥がしきりに鳴いている春の野に、草がどんどん茂っていくように、盛んに恋をすることだ。

〈1899〉春になると、卯の花を傷めながら私が潜り抜けていた、あの子の家の垣間は、今や荒れ果てて人気(ひとけ)がなくなっている。

 

鑑賞 >>>

 1897・1898は「鳥に寄せる」歌。1897の「春されば」は、春になると。上2句は「見えず」を導く序詞。「草ぐき」は、草に潜る意。もずは、野山の草木の間に潜んで姿を見せない習性があります。1898の「貌鳥」は、美しい鳥またはカッコウ。「しば鳴く」は、しきりに鳴く。「草根」は、草。

 1899は「花に寄せる」歌。「卯の花ぐたし」の「ぐたし」は本来は清音で、熟語のために濁音になっており、「くたす」は腐らせる、朽ちさせるの意。「垣間」は、生垣の隙間。「卯の花」は、旧暦4月の卯月に咲くのでこの名が付いた、あるいは、卯の花が咲く月なので「卯月」となったともいわれます。この歌が詠まれた事情はよく分かりませんが、恋人が心変わりしていなくなってしまったのでしょうか。

 

 

万葉集』に詠まれた鳥

1位 霍公鳥(ほととぎす) 153首
2位 雁(かり) 66首
3位 鶯(うぐいす) 51首
4位 鶴(つる:歌語としては「たづ」) 45首
5位 鴨(かも) 29首
6位 千鳥(ちどり) 22首
7位 鶏(にわとり)・庭つ鳥 16首
8位 鵜(う) 12首

『万葉集』掲載歌の索引