大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

東歌(28)・・・巻第14-3353~3354

訓読 >>>

3353
麁玉(あらたま)の伎倍(きへ)の林に汝(な)を立てて行きかつましじ寐(い)を先立(さきだ)たね

3354
伎倍人(きへひと)の斑衾(まだらぶすま)に綿(わた)さはだ入りなましもの妹(いも)が小床(をどこ)に

 

要旨 >>>

〈3353〉麁玉のこの伎倍の林に見送るお前さんを立たせたまま行くことなどできない。まずはその前に共寝をしようではないか。

〈3354〉伎倍人のまだら模様の布団には、綿がいっぱい入っている。その綿のように、私も彼女の床の中に入りこみたいものだ。

 

鑑賞 >>>

 遠江(とおつおうみ)の国(静岡県西部)の歌。古代、浜名湖を「遠つ淡海」、琵琶湖を「近つ淡海」と呼んでいました。「遠つ」「近つ」は都から遠い、近いの意で、その後それぞれ国名になったものです。

 3353の「麁玉」は、静岡県浜松市北部から浜北市にかけての地。「伎倍」の所在は未詳ながら、古代帰化人の機織り職人が住む集落「伎戸(きへ)」を意味したともいわれます。「汝を立てて」は、おまえを立たせて。「行きかつましじ」は、とても行くことには堪えられない。「寐を先立たね」は、寝ることをまず先にしよう。旅立つ男を妻が見送り、伎倍の林まで来たところで男が言った歌、あるいは、元々歌垣で詠われたものが山野の下草刈りなどの作業歌になったのではないかとされます。

 3354の上3句は「入り」を導く序詞。「斑衾」は、まだら模様に染めた掛け布団。「綿さはだ」は、綿がたくさん入っている。「小床」の「小」は、接頭語。伎倍人の斑衾は、当時のわが国にはない珍しい物だったとみえ、その暖かそうなのを見て、妻の床を連想しています。