訓読 >>>
大和(やまと)恋ひ寐(い)の寝(ね)らえぬに心なくこの洲崎廻(すさきみ)に鶴(たづ)鳴くべしや
要旨 >>>
大和が恋しくて寝るに寝られないのに、思いやりもなく、この洲崎あたりで鶴が鳴いてよいものだろうか。
鑑賞 >>>
忍坂部乙麻呂(おさかべのおとまろ:伝未詳)の歌。題詞に、大行天皇(さきのすめらみこと)が難波宮に行幸されたときの歌とあります。「大行天皇」とは、本来天皇崩御後、御謚号を奉らない間の称であったのが、この頃には、先帝の意味で用いるようになっており、『万葉集』の例ではすべて文武天皇を指しています。行幸の時期は明らかでありません。
「寐の寝らえぬに」は、寝ても眠れないのに。「洲崎」は、海上に長く突き出た渚の崎。「廻」は、~の辺り。「鳴くべしや」の「や」は、反語。鳴いてよいものか、鳴くべきではない。