訓読 >>>
愛(うつく)しみ我(わ)が念(も)ふ妹(いも)を人みなの行く如(ごと)見めや手にまかずして
要旨 >>>
おれの恋しい女が今あちらを歩いているが、それを普通の女と同じに平然と見ていられようか、手にまくことなしに。
鑑賞 >>>
『柿本人麻呂歌集』から「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「人みなの」は、世間の人すべての。「見めや」の「や」は反語。男による求婚の歌で、恋しい女を手にもまかずにいるのが辛いけれど、人目があるのでどうしようもないと言っています。「人みなの行く如見めや」の句を、斎藤茂吉は「強くて情味を湛え、情熱があってもそれを抑えて、傍観しているような趣が、この歌をして平板から脱却せしめている」と評しています。