大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

うら若み人のかざししなでしこが花・・・巻第8-1610

訓読 >>>

高円(たかまと)の秋野(あきの)の上(うへ)のなでしこが花 うら若み人のかざししなでしこが花

 

要旨 >>>

高円の秋野に咲いたナデシコの花。初々しいのでどなたかが挿頭になさった、そのナデシコの花。

 

鑑賞 >>>

 丹生女王(にうのおおきみ)が、大宰帥大伴旅人に贈った旋頭歌形式(5・7・7・5・7・7)の歌。「高円」は、奈良市の東南の、春日山の南の一帯。「うら若み」は、初々しいので。「人」は、旅人のこと。「かざしし」は、ここでは愛した意。表面的には風雅な便りとなっていますが、女王が若かりしころに、旅人に愛されたことを懐かしみつつ、ナデシコの花を自分自身に譬えています。古風な旋頭歌にしたのもその心にふさわしい、と窪田空穂は言っています。

 ナデシコは、ナデシコ科の多年草一年草も)で、秋の七草の一つ。夏にピンク色の可憐な花を咲かせ、我が子を撫でるように可愛らしい花であるところから「撫子(撫でし子)」の文字が当てられています。数多くの種類があり、ヒメハマナデシコとシナノナデシコは日本固有種です。