大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

うたがたも言ひつつもあるか我れならば・・・巻第12-2895~2897

訓読 >>>

2895
人言(ひとごと)を繁(しげ)み言痛(こちた)み我妹子(わぎもこ)に去(い)にし月よりいまだ逢はぬかも

2896
うたがたも言ひつつもあるか我(わ)れならば地(つち)には落ちず空に消(け)なまし

2897
いかならむ日の時にかも我妹子(わぎもこ)が裳(も)引きの姿(すがた)朝に日(け)に見む

 

要旨 >>>

〈2895〉人の噂が激しくうるさいので、あの子に、先月以来いまだ逢いに行けずにいます。

〈2896〉何だってそんなにむきになって言いたてるのか。私なら地面に落ちて名を汚すことなく、空に消えるよ。

〈2897〉いったいいつの日になったら、あの子が裳裾を引いて歩く姿を、朝も昼も絶えず見られるようになるのだろうか。

 

鑑賞 >>>

 「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。2895の「言痛み」は、わずらわしいので。2896の「うたがたも」は語義未詳ながら、いちずに、むやみにの意ではないかとされます。「地に落つ」は、名を汚すこと。女から「二人の関係が噂になって、名を汚しそうだ」のように言ってきたのに対する返歌とみられます。「消なまし」の「まし」は、反実仮想。2897の「朝に日に」は「常に」ということを具象的に言ったもので、同棲を意味します。

 

 

【為ご参考】万葉仮名