大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

大和には鳴きてか来らむ呼子鳥・・・巻第1-70

訓読 >>>

大和には鳴きてか来(く)らむ呼子鳥(よぶこどり)象(きさ)の中山(なかやま)呼びそ越(こ)ゆなる

 

要旨 >>>

大和には今ごろ呼子鳥が鳴いて来ているのだろうか。象の中山を人を呼びながら鳴き渡っている声が聞こえる。

 

鑑賞 >>>

 高市黒人(たけちのくろひと)が、持統太上天皇の吉野行幸に従駕したときの作。この歌は、作者の正式な宴遊歌として現存する唯一の歌で、「大和」は、藤原京を指しています。「呼子鳥」は、カッコウまたはホトトギス。この名は時代と共に変化しており、「喚子鳥」と書いた字面から「閑古鳥」といわれ、やがて郭公(カッコウ)になったとされ、カッコウ呼子鳥といった例が最も多いようですが、未だ定説がありません。「象の中山」は、吉野離宮の上の象山(きさやま)。「中山」は、中間の山。

 高市黒人柿本人麻呂とほぼ同時代の下級官人(生没年未詳)。大和国6県の一つである高市県の統率者の家筋で、その氏人の一人だと見られています。『万葉集』に収められている18首の歌はすべて大和以外の旅先のもので、とくに舟を素材とし、漠とした旅愁を漂わせる作品に特色があります。