大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

ただ今夜逢ひたる子らに・・・巻第10-2060~2063

訓読 >>>

2060
ただ今夜(こよひ)逢ひたる子らに言(こと)どひもいまだせずしてさ夜(よ)ぞ明けにける

2061
天(あま)の川(がは)白波(しらなみ)高し我(あ)が恋ふる君が舟出(ふなで)は今しすらしも

2062
機物(はたもの)の蹋木(ふみき)持ち行きて天(あま)の川(がは)打橋(うちはし)渡す君が来(こ)むため

2063
天(あま)の川(がは)霧(きり)立ち上(のぼ)る織女(たなばた)の雲の衣(ころも)のかへる袖(そで)かも

 

要旨 >>>

〈2060〉まさに今夜逢った愛しい妻に、まだ十分言葉を交わさないうちに、夜が明けてしまった。

〈2061〉天の川に白波が高い。私が恋い慕うあの方が、ちょうど舟出をするのだろう。

〈2062〉機織り機の踏み木を持って行って、天の川に打橋を渡そう。あの人が渡ってこられるように。

〈2063〉天の川に霧がかかっている。あれは、織姫が着ている雲の着物のひるがえっている袖なのだろうか。

 

鑑賞 >>>

 七夕の歌。2060の「ただ今夜」の「ただ」は、まさに。「子ら」の「ら」は接尾語。「言どひ」は、言葉を交わすこと。「さ夜」の「さ」は、接頭語。「ける」は「ぞ」の結。2061の「今し」の「し」は、強意。「すらしも」の「らし」は、現在推量。2062の「蹋木」は、機織り機の、縦糸を上下に動かすために足で踏み動かす板。「打橋」は、板を渡して自由に掛け外しできる簡単な橋。多くの場合、通ってくる夫を迎える時に、女が渡しました。蹋木はごく短いものなので、それで打橋を渡せるわけもないのに、「それがかえってこの歌に可憐な感じを与えている」と、詩人の大岡信は言っています。2063の「雲の衣」は、七夕を歌った漢詩によく見られる「雲衣」から発想を得ています。

 

 

 

万葉集』クイズ

  1. 万葉集』の巻頭を飾る歌を詠んだのは誰?
  2. 万葉集』に最も多くの歌を残しているのは誰?
  3. 万葉集』に最も多くの歌を残している女性は誰?
  4. 万葉集』で最も多く詠まれている植物は?
  5. 年号の「令和」の出典となった漢文が載っているのは第何巻?
  6. 万葉集』で秋の七草を詠んだのは誰?
  7. 万葉集』で最も多く詠まれている鳥は?
  8. 大伴家持の本妻の呼び名は?
  9. 若くして亡くなった大伴家持の弟の名は?
  10. 万葉集』で浦島太郎伝説を詠んだのは誰?

 

【解答】

1.雄略天皇 2.大伴家持 3.大伴坂上郎女 4.萩 5.第5巻 6.山上憶良 7.ホトトギス 8.大伴坂上大嬢 9.大伴書持 10.高橋虫麻呂