大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

二上に隠らふ月の惜しけども・・・巻第11-2667~2669

訓読 >>>

2667
真袖(まそで)持ち床(とこ)うち掃(はら)ひ君待つと居(を)りし間に月かたぶきぬ

2668
二上(ふたかみ)に隠らふ月の惜しけども妹(いも)が手本(たもと)を離(か)るるこのころ

2669
我(わ)が背子(せこ)が振り放(さ)け見つつ嘆くらむ清き月夜(つくよ)に雲なたなびき

 

要旨 >>>

〈2667〉両の袖で床を払い、あなたを待っているうちに、月が西に傾いてしまいました。

〈2668〉あの二上山に隠れていく月のように、名残惜しいけれども、評判がうるささに、いとしい彼女から離れ、手枕もしないこのごろよ。
 
〈2669〉あの方が振り仰いで嘆いておいででしょう。この清らかな月夜に、雲よたなびかないでください。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、月に寄せての歌。2667の「真袖」は、両方の袖。2668の上2句は「惜しけ」を導く序詞。「二上山」は、大和国原の真西、奈良県大阪府の境界をなす葛城連峰にある山で、標高517mの雄岳(おだけ)と標高474mの雌岳(めだけ)の二つの峰からなります。フタカミは元は二つの神の意で、「あめのふたかみ」と呼び、「天二上嶽」と書きます。古くから神の山としてあがめられていました。「手本」は腕で、手枕を言い換えたもの。2669の「振り放け見つつ」は、振り返って仰ぎ見る。「雲なたなびき」の「な」は、禁止。

 

 

 

『万葉集』掲載歌の索引

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