訓読 >>>
1318
底清み沈(しづ)ける玉を見まく欲(ほ)り千(ち)たびぞ告(の)りし潜(かづ)きする海人(あま)
1319
大海(おほうみ)の水底(みなそこ)照らし沈(しづ)く玉(たま)斎(いは)ひて採(と)らむ風な吹きそね
1320
水底(みなそこ)に沈(しづ)く白玉(しらたま)誰(た)が故(ゆゑ)に心尽して我(わ)が思はなくに
1321
世の中は常(つね)かくのみか結びてし白玉(しらたま)の緒(を)の絶(た)ゆらく思へば
要旨 >>>
〈1318〉海の底がきれいなので、沈んでいる真珠が見える。それを手に取って見たいと思い、何度も何度もそれを採ってくるように言ったことだ。水に潜ろうとする海人に。
〈1319〉大海の水底に沈んで光っている真珠を、わが身を清めて採りに行こうと思う。風よ、どうか吹かないでくれ。
〈1320〉水底に沈んでいる真珠よ。私はお前の他の誰に対しても、こんなに心を尽くして思ったりはしていないのに。
〈1321〉世の中とは、いつもこんなにはかないものなのか、堅く結んでおいたはずの真珠の紐がぷつんと切れてしまうことを思うと。
鑑賞 >>>
「玉に寄する」歌。1318の「底清み」は、底が清いので。「沈ける玉」は、沈んでいる玉(真珠)で、深窓に育った美女の喩え。「見まく欲り」の「見まく」は「見む」のク語法で名詞形。手に取って見たいと思い。「潜き」は、水に潜ってする漁。「海人」を仲介者に喩え、娘との仲介を催促している男の歌とされます。
1319の「大海の水底照らし沈く玉」は、世間で評判の深窓に育てられた美女の譬え。「斎ひて」は、心身を清め慎んで。「風な吹きそね」の「な~そ」は禁止、「ね」は、他に対しての願望の終助詞。1320の「沈く」は、水底に沈んでいる。「誰が故に」は、下に打消を伴い、誰のゆえにでもなく。「心尽して」は、心も消え失せるほどにあれこれ思う意。
1321の「世の中」の原文「世間」は、仏教用語。「かくのみか」は、こんなふうに無常なのか。「結びてし白玉の緒」は、白玉と白玉とを貫いて一つに結び合わせておいた緒のことで、固く約束してあった夫婦の仲の譬え。「絶ゆらく」は「絶ゆ」のク語法で名詞形。相手の心変わりで縁が切れることの譬え。恋人に捨てられた人の嘆きで、女の歌でしょうか。