大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

陸奥の安達太良真弓弦着けて・・・巻第7-1329~1330

訓読 >>>

1329
陸奥(みちのく)の安達太良真弓(あだたらまゆみ)弦(つら)着(は)けて引かばか人の我(わ)を言(こと)なさむ

1330
南淵(みなぶち)の細川山(ほそかはやま)に立つ檀(まゆみ)弓束(ゆづか)巻くまで人に知らえじ

 

要旨 >>>

〈1329〉陸奥の安達太良産の弓に弓弦(ゆづる)を張って引くようなことをすれば、人は私のことをあれこれ噂するだろうか。

〈1330〉南淵の細川山に立っている檀の木よ、弓に仕上げて弓束を巻くまでは、人に知られないようにしよう。

 

鑑賞 >>>

 「弓に寄する」歌。1329の「安達太良真弓」は、福島県二本松市の西部にある安達太良山(標高1700m)で産した檀の木で作った弓。相手の女の譬え。「弦着けて」は、弓に弦を張って。平常は弦を張らず、使用する際に張るので、このように言っています。「引かばか」は、弦を引くのと、女に言い寄る、誘う意の引くとを掛けています。「か」は、疑問の係助詞。「人」は、周囲の人々。「言なさむ」は、言いはやす、噂をするだろう。

 1330の「南淵の細川山」は、奈良県明日香村稲淵の細川に臨む山。「檀」は、山野に自生するニシキギ科の落葉小木。上代にはこの木で弓を作ったので、マユミの名があります。ここは目をつけた娘の譬え。「弓束」は、弓の中央の、弓を引く時に握る部分。「弓束巻くまで」は、弓束に革や桜の皮を巻きつけて弓を仕上げるまで、の意で、娘が成人して我がものになるまでの譬喩。「知らえじ」は、知られまい。意中の女と結婚するまでは、人に知られまいという男の願いを歌っています。

 

 

 

檀(まゆみ)

 落葉小木の檀(真弓とも)は、日本と中国の野山に自生し、名前にあるように古くは弓の材料として使われ、和紙の原料とされていたこともあります。晩春から初夏にかけて咲く花は、薄い緑色で目立たず、新しい梢の根本近くに4弁の小花がいくつもつきます。長楕円形の葉は対生してつき、秋には紅色、薄紅色に紅葉します。薄紅色の果実は、熟すと裂けて赤い種子を露出します。

 『万葉集』には12首詠まれており、弓は弦を引くことから、その多くは「弾く」「張る」の枕詞として用いられています。

『万葉集』掲載歌の索引

各巻の概要