訓読 >>>
1331
磐畳(いはたたみ)恐(かしこ)き山と知りつつも吾(わ)れは恋ふるか同等(なみ)ならなくに
1332
岩が根の凝(こご)しき山に入り初(そ)めて山なつかしみ出(い)でかてぬかも
要旨 >>>
〈1331〉岩がごつごつと露出した恐ろしい山だと知ってはいても、私は恋い焦がれている、たやすく登れる山ではないのに。
〈1332〉岩が厳しく凝り固まっている山に足を踏み入れてみると、その山に心ひかれてならず、出るに出られない気持ちだ。
鑑賞 >>>
「山に寄せる」歌。いずれの歌も、身分違いの相手との恋路の困難さを背景にしています。1331の「磐畳」は、岩がごつごつと露出した恐ろしい山。普通名詞として解釈されますが、『備中誌』には、岡山県総社市秦の石畳神社にまつわる歌であると伝えられています。ここは高貴な(または神聖な)相手の譬え。「同等ならなくに」の「同等」は「並ぶ」の名詞形で、同等、同列の意。「ならなくに」は、ならぬことなのに。自分の登る力に見合った山ではないのに、の意ですが、自分と同じ程度の身分の相手ではないのに、の意を寓しています。身の程知らずの恋の悩みを訴えており、男の歌とも女の歌とも取れます。
1332の「岩が根の凝しき山」の「岩が根」は、岩。「根」は、大地にどっしりと固定し根を張っている物につける接尾語。「凝しき」は、凝り固まっている。前の歌と同様に、身分違いの高貴な相手の譬え。「山なつかしみ」は、山に心がひきつけられて。「かてぬ」の「かて」は可能、「ぬ」は打消で、できない。「かも」は、詠嘆。その高貴な相手と関係ができてからは、相手がよくてならず、関係を絶ち難いと言っています。こちらも男の歌とも女の歌とも取れますが、「入り初めて」という行動は男の立場を示しているようではあります。
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について