訓読 >>>
2689
朝露(あさつゆ)の消(け)やすき我(あ)が身(み)老いぬともまたをちかへり君をし待たむ
2690
白栲(しろたへ)の我(わ)が衣手(ころもで)に露は置きて妹(いも)は逢はなくたゆたひにして
2691
かにかくに物は思はじ朝露(あさつゆ)の我(あ)が身一つは君がまにまに
要旨 >>>
〈2689〉朝露のように消えやすい身ですもの。老いてしまおうとまた若返って、あなたをお待ちします
〈2690〉私の着物の袖に露がおりても、あの子は逢ってくれない。ずっとためらってばかりいて。
〈2691〉あれこれと物思いはもうすまい、朝露のようにはかない私の命は、あなた次第なのです。
鑑賞 >>>
「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、露に寄せての歌。2689は、疎遠になった夫への訴えの歌。「朝露の」は「消」の枕詞。「をちかへり」は、若返り。2690の「白栲の」は「衣手」の枕詞。「たゆたひ」は、思い迷うこと。家人に秘密で逢う女の家の戸外に立ち、女が出てくるのを待ち続けている男の歌です。2691の「かにかくに」は、あれやこれやの意。「朝露の」は消えやすい意で、「我が身」の枕詞。「君がまにまに」は、君の心のままに。