大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

手に取れば袖さへにほふ女郎花・・・巻第10-2113~2115

訓読 >>>

2113
手寸十名相 植ゑしも著(しる)く出(い)で見ればやどの初萩(はつはぎ)咲きにけるかも

2114
我が宿に植ゑ生(お)ほしたる秋萩(あきはぎ)を誰(た)れか標(しめ)刺す我(わ)れに知らえず

2115
手に取れば袖(そで)さへにほふ女郎花(をみなへし)この白露(しらつゆ)に散らまく惜しも

 

要旨 >>>

〈2113〉手寸十名相 植えた甲斐があって、庭に出て見ればわが家の初萩が見事に咲いている。

〈2114〉我が家の庭に植えて育てている秋萩に、いったい誰が標を刺したのか、私に知れないように。

〈2115〉袖までも美しく染まるような女郎花(おみなえし)が、この白露で散ってしまうのは惜しいことだ。

 

鑑賞 >>>

 「花を詠む」歌。2113の「手寸十名相」は訓、語義とも未詳ですが、「手もすまに」と読んで「苦労して」の意とする説があります。2114の「標刺す」は、土地や土地に生えている植物などを自分のものであると示すために地面に刺す杭や串のこと。「知らえず」は、知れないように。この歌は、母親に無断で娘と婚約をした男をなじっているとする見方もあります。今も昔も変わらない、娘を心配する親心の歌でしょうか。

 2115の「袖さへにほふ」は、袖までも美しく染まる。「女郎花」は、秋の七草のひとつに数えられ、小さな黄色い花が集まった房と、枝まで黄色に染まった姿が特徴。『万葉集』の時代にはまだ「女郎花」の字はあてられておらず、「姫押」「姫部志」「佳人部志」などと書かれていました。いずれも美しい女性を想起させるもので、「姫押」は「美人(姫)を圧倒する(押)ほど美しい」意を語源とする説があります。『万葉集』でこの花を詠んだ歌は14首あります。「白露(しらつゆ)」は漢語「白露」の翻読語。「散らまく」は「散らむ」のク語法で名詞形。

 

 

 

万葉集』クイズ

次の歌の作者は誰?

  1. わが行きは久にはあらじ夢のわだ瀬にはならずて淵にあらぬかも
  2. 恋ひ恋ひて逢へる時だに愛しき言尽くしてよ長くと思はば
  3. 大橋の頭に家あらばま悲しく独り行く児に宿貸さましを
  4. あしひきの山のしづくに妹待つとわれ立ち濡れぬ山のしづくに
  5. 君が行き日長くなり山たづね迎へ行かむ待ちにか待たむ
  6. 丈夫や片恋ひせむと嘆けども醜のますらをなほ恋ひにけり
  7. わが里に大雪降れり大原の古りにし里に降らまくは後
  8. 吾はもや安見児得たり皆人の得がてにすとふ安見児得たり
  9. 近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのに古思ほゆ
  10. 士やも空しくあるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして

 

【解答】

1.大伴旅人 2.大伴坂上郎女 3.高橋虫麻呂 4.大津皇子 5.磐姫皇后 6.舎人皇子 7.天武天皇 8.藤原鎌足 9.柿本人麻呂 10.山上憶良

『万葉集』掲載歌の索引

【為ご参考】万葉仮名