大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

明日香川七瀬の淀に住む鳥も・・・巻第7-1366~1367

訓読 >>>

1366
明日香川(あすかがは)七瀬(ななせ)の淀(よど)に住む鳥も心あれこそ波(なみ)立てざらめ

1367
三国山(みくにやま)木末(こぬれ)に住まふむささびの鳥待つごとく我(わ)れ待ち痩(や)せむ

 

要旨 >>>

〈1366〉明日香川の数多くの瀬ごとに棲む鳥は、思いやりがあるからこそ、波を立てるようなことはしないのだろう。

〈1367〉三国山の梢に棲んでいるむささびが鳥を待つように、私はあの人を待ち続けて痩せてしまうでしょう。

 

鑑賞 >>>

 1366は「鳥に寄する」歌。「明日香川」は、明日香地方を流れ、大和川に合流する川。「七瀬」は、多くの水脈の意。「淀」は、水が淀んで流れが遅い所。「心あれこそ」は、思慮があるので。「波立てざらめ」の「め」は、推量の助動詞「む」の已然形で「こそ」の係り結び。波を立てずにいるのだろう。この結句の後に「だから、私たちも心して波を立てないでいよう」、つまり「口やかましい世間の噂に惑わされないようにしよう」という言葉が暗示されています。若い男女がお互いに戒め合った歌とされます。

 1367は「獣に寄する」歌。「三国山」は所在未詳。福井県三国町の山かともいわれますが、三つの国の国境が集中している山の名であり、各地にあります。「木末」は、梢。「むささび」は、リス科の小動物。手足の間に皮膜が発達し、これを広げて木から木へと滑空します。「鳥待つごとく」とあり、むささびは鳥を捕らえて食べる動物ではないのですが、そのように見たものと見えます。第4句までが第5句の譬喩となっており、疎遠にしている男を待つ女心の歌です。

 

 

 

係り結び

 文中に「ぞ・なむ・や・か・こそ」など、特定の係助詞が上にあるとき、文末の語が終止形以外の活用形になる約束ごと。係り結びは、内容を強調したり疑問や反語をあらわしたりするときに用いられます。

①「ぞ」「なむ」・・・強調の係助詞
 ⇒ 文末は連体形
   例:~となむいひける

②「や」「か」・・・疑問・反語の係助詞
 ⇒ 文末は連体形
   例:~やある

③「こそ」・・・強調の係助詞
 ⇒ 文末は已然形
   例:~とこそ聞こえけれ

『万葉集』掲載歌の索引

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