訓読 >>>
春されば樹(き)の木(こ)の暗(くれ)の夕月夜(ゆふづくよ)おぼつかなしも山陰(やまかげ)にして
要旨 >>>
春になって木々が萌え茂り、それが山陰であるので、ただでさえ光の薄い夕月夜が、いっそう薄くほのかだ。
鑑賞 >>>
「月を詠む」歌。「春されば」は、春になったので。「木の暗」は、木が茂って暗くなっているところ。「おぼつかなし」は、はっきりしない。「山陰にして」は、山陰なので。斎藤茂吉は、「巧みでない寧ろ拙な部分の多い歌ではあるが、『おぼつかなしも』の句に心ひかれる」と言っています。
枕詞あれこれ
あかねさす
「日」「昼」に掛かる枕詞。「赤く輝く」もの、」すなわち太陽を意味する。また、茜(あかね)色に近い「紫」の枕詞にも転用されている。
秋津島/蜻蛉島(あきづしま)
「大和」にかかる枕詞。「秋津島」は、日本の本州の古代の呼称で、『古事記』には「大倭豊秋津島」(おおやまととよあきつしま)、『日本書紀』には「大日本豊秋津洲」(おおやまととよあきつしま)と、表記している。また「蜻蛉島」は、神武天皇が国土を一望してトンボのようだと言ったことが由来とされている。
朝露の
「消」に掛かる枕詞。朝露は消えやすいところから。
あしひきの
「山」に掛かる枕詞。語義未詳ながら、足を引きずってあえぎながら登る意、山すそを稜線が長く引く意など諸説がある。
あぢむらの
「あぢむら」は、アジガモ(味鴨)。アジガモが群がって騒ぐことから、「騒く」にかかる枕詞。
梓弓(あづさゆみ)
梓弓は、梓の丸木で作られた弓。弓を射る動作から「はる」「ひく」「いる」などに掛かる。また弓に付いている弦(つる)から同音の地名「敦賀」に、弓の部分の名から「末」などにも掛かる。
天伝ふ
「日」に掛かる枕詞。「天(大空)を伝い渡っていく」もの、すなわち太陽を意味し、「日」の修飾ではなく、同格の関係にある。「天知るや」「高照らす」「高光る」なども同様。
天飛ぶや
「鳥」「鴨」に掛かる枕詞。空高く飛ぶことから。また、「雁」を転用して「軽(かる」にも掛かる。
荒妙(あらたへ)の
「藤」に掛かる枕詞。荒妙は、木の皮の繊維で作った粗い布で、おもに藤をその材料としていたことから。
あらたまの
「年」に掛かる枕詞。語義未詳で、一説に年月が改まる意からとも。ほかに「月」「春」「枕」などに掛かる。
あをによし
「奈良」に掛かる枕詞。奈良坂の付近で青丹(あおに)を産したところから。青は寺院や講堂などの、窓のようになっている部分の青い色、丹は建物の柱などの、朱色のこと。
鯨(いさな)取り
「海」に掛かる枕詞。鯨(いさな=クジラ)のような巨大な獲物がとれる所として海を賛美する語。ほかに「浜」にも掛かる。
石上(いそのかみ)
「石上」は、今の奈良県天理市石上付近で、ここに布留(ふる)の地が属して「石の上布留」と並べて呼ばれたことから、布留と同音の「古(ふ)る」「降る」などに掛かる枕詞。
うちなびく
「春」に掛かる枕詞。春は草木が打ち靡く季節であるから。
打ち日さす
「宮」「都」に掛かる枕詞。日の光が輝く意から。
うつそみの
「人」「世」に掛かる枕詞。語源は「現(うつ)し臣(おみ)」で、この世の人、現世の人の意。「臣」は「君」に対する語で、神に従う存在をいう。ウツシオミがウツソミと縮まり、さらにウツセミに転じた。
鶉(うづら)鳴く
「古る」に掛かる枕詞。ウズラは、草深い古びた所で鳴くことから。
味酒(うまさけ)
「三輪」に掛かる枕詞。うまさけ(味酒:味のよい上等な酒)を神酒(みわ)として神に捧げることから、同音の地名「三輪」に掛かる。また、三輪山のある地名「三室(みむろ)」「三諸(みもろ)」などにも掛かる。
押し照る
地名の「難波」にかかる枕詞。上町台地からながめた大阪湾が夕陽で一面に光り輝く様をあらわす。かつては上町台地が大阪湾に面する海岸だった。
沖つ藻(も)の
「靡く」に掛かる枕詞。海藻は波に靡くところから。