訓読 >>>
3681
帰り来て見むと思ひし我(わ)が宿(やど)の秋萩(あきはぎ)すすき散りにけむかも
3682
天地(あめつち)の神を祈(こ)ひつつ我(あ)れ待たむ早(はや)来ませ君(きみ)待たば苦しも
3683
君を思ひ我(あ)が恋ひまくはあらたまの立つ月ごとに避(よ)くる日もあらじ
要旨 >>>
〈3681〉無事に帰ってきたら見ようと思った我が家の庭の秋萩やすすきは、今ごろはもう散ってしまっただろうか。
〈3682〉天地の神々にご無事を祈りながら、私はお待ちしています。どうか早く帰ってきてください、あなたさま。お待ちするのは苦しゅうございます。
〈3683〉あなたのことを思って恋い焦がれる私の気持ちは、いくら月が変わっても避ける日などなく、長く続くことでしょう。
鑑賞 >>>
肥前国(佐賀県・長崎県)松浦郡(まつらのこおり)の狛島(こましま)に停泊した夜、海の波をはるかに眺めてそれぞれ旅の心を悲しんで作った歌。「狛島」は、佐賀県唐津市の神集島(かしわじま)。引津からさらに西へ行き、肥前国の唐津を過ぎて北に向かうと松浦の海があり、唐津湾内に神集島がありました。
3681は、秦田麻呂(はだのたまろ:伝未詳)の歌。「宿」は、家の敷地、庭先。「散りにけむ」の「に」は完了、「けむ」は過去推量。帰り着く予定の秋がすでに深まるのを嘆いています。3682は娘子の歌とあり、船泊まりでの宴に接した遊行女婦とされます。「祈ふ」は、祈り願う。「来ませ」の「ませ」は、丁寧の助動詞「ます」の命令形。3683の「恋ひまく」は「恋ひむ」の名詞形。「あらたまの」は「年」の枕詞であるのを「月」に転用したもの。「避くる日」は、信仰によって何らかを忌避する日の意。これから危険な外洋に出向く遣新羅使の代表的な人に対し、送別の心を詠んだ歌ですが、誰が誰に言ったものか明らかでありません。
『万葉集』に詠まれた植物
1位 萩 142首
2位 こうぞ・麻 138首
3位 梅 119首
4位 ひおうぎ 79首
5位 松 77首
6位 藻 74首
7位 橘 69首
8位 稲 57首
9位 すげ・すが 49首
9位 あし 49首