訓読 >>>
我(わ)が妹子(いもこ)が偲(しぬ)ひにせよと付(つ)けし紐(ひも)糸になるとも我(わ)は解(と)かじとよ
要旨 >>>
わが妻が、私を偲ぶよすがにして下さいと付けてくれた着物の紐、たとえ糸のように細くなろうとも、解いたりなんかしないってことよ。
鑑賞 >>>
上野国の防人、朝倉益人(あさくらますひと)の歌。「我が妹子」は「わぎもこ」の約音になる前の原形で、他には用例のないもの。「偲ひ」は、見て相手を偲ぶよすがとなる品。「解かじとよ」の「じ」は、意志のこもる打消の助動詞。「とよ」は、~ということだよ、~と思っているよ、の意。文末に用い強調を表す連語で、中古以降に多くの例があります。旅の途上、衣の紐によって妻を思い出している歌で、妻が紐を結ぶのは、その紐に自分の霊を結び込める呪術であったため、紐を解かないことで、妻の霊を我が身より離すまいと言っています。
巻第20「防人歌」の構成
兵部少輔の大伴家持に上進された防人たちの歌は、全部で166首ありましたが、「拙劣歌は取り載せず」として82首が省かれました。巻第20の防人歌の構成と国別内訳は下記のとおりです。
遠江国の防人の歌
4321~4327・・・進上18首のうち7首
相模国の防人の歌
4328~4330・・・進上8首のうち3首
大伴家持の歌
4331~4336
駿河国の防人の歌
4337~4346・・・進上20首のうち10首
上総国の防人の歌
4347~4359・・・進上19首のうち13首
常陸国の防人の歌
4363~4372・・・進上17首のうち10首
下野国の防人の歌
4373~4383・・・進上18首のうち11首
下総国の防人の歌
4384~4394・・・進上22首のうち11首
大伴家持の歌
4398~4400
信濃国の防人の歌
4401~4403・・・進上12首のうち3首
上野国の防人の歌
4404~4407・・・進上12首のうち4首
大伴家持の歌
4408~4412
武蔵国の防人の歌
4413~4424・・・進上20首のうち12首
昔年の防人の歌
4425~4432
昔年に交替した防人の歌
4436
※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について