大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

防人の歌(36)・・・巻第20-4405

訓読 >>>

我(わ)が妹子(いもこ)が偲(しぬ)ひにせよと付(つ)けし紐(ひも)糸になるとも我(わ)は解(と)かじとよ

 

要旨 >>>

わが妻が、私を偲ぶよすがにして下さいと付けてくれた着物の紐、たとえ糸のように細くなろうとも、解いたりなんかしないってことよ。

 

鑑賞 >>>

 上野国の防人、朝倉益人(あさくらますひと)の歌。「我が妹子」は「わぎもこ」の約音になる前の原形で、他には用例のないもの。「偲ひ」は、見て相手を偲ぶよすがとなる品。「解かじとよ」の「じ」は、意志のこもる打消の助動詞。「とよ」は、~ということだよ、~と思っているよ、の意。文末に用い強調を表す連語で、中古以降に多くの例があります。旅の途上、衣の紐によって妻を思い出している歌で、妻が紐を結ぶのは、その紐に自分の霊を結び込める呪術であったため、紐を解かないことで、妻の霊を我が身より離すまいと言っています。

 

 

 

巻第20「防人歌」の構成

 兵部少輔の大伴家持に上進された防人たちの歌は、全部で166首ありましたが、「拙劣歌は取り載せず」として82首が省かれました。巻第20の防人歌の構成と国別内訳は下記のとおりです。

遠江国の防人の歌
 4321~4327・・・進上18首のうち7首

相模国の防人の歌
 4328~4330・・・進上8首のうち3首

大伴家持の歌
 4331~4336

駿河国の防人の歌
 4337~4346・・・進上20首のうち10首

上総国の防人の歌
 4347~4359・・・進上19首のうち13首

常陸国の防人の歌
 4363~4372・・・進上17首のうち10首

下野国の防人の歌
 4373~4383・・・進上18首のうち11首

下総国の防人の歌
 4384~4394・・・進上22首のうち11首

大伴家持の歌
 4398~4400

信濃国の防人の歌
 4401~4403・・・進上12首のうち3首

上野国の防人の歌
 4404~4407・・・進上12首のうち4首

大伴家持の歌
 4408~4412

武蔵国の防人の歌
 4413~4424・・・進上20首のうち12首

昔年の防人の歌
 4425~4432

昔年に交替した防人の歌
 4436

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について

『万葉集』掲載歌の索引