訓読 >>>
我が行きの息づくしかば足柄(あしがら)の峰(みね)延(は)ほ雲を見とと偲(しの)はね
要旨 >>>
おれが旅に出て嘆かわしくなったら、足柄山の峰を這う雲を見ながら、このおれを偲んでおくれ。
鑑賞 >>>
武蔵の国の防人、都筑郡(つつくのこおり)の上丁、服部於由(はとりべのおゆ)の歌。「行き」は旅。「息づくし」は「息づかし」の方言で、嘆かわしの意。「足柄の峰」は、神奈川県と静岡県の境にある足柄山。この時代、東国から西の方に行くには、東山道なら碓氷の坂(碓氷峠)、東海道なら足柄の坂(足柄峠)のいずれかを越えて行かねばなりませんでした。箱根路が開かれるのは後の時代のことです。「延ほ」は「延ふ」の方言。「見とと」は「見つつ」の方言。