訓読 >>>
岡(をか)の崎(さき)廻(た)みたる道(みち)を人な通ひそ ありつつも君が来(き)まさむ避道(よきみち)にせむ
要旨 >>>
岡の向こうを回っていく道を、誰も通らないでほしい。そのままにしておいて、あの人がやってくる特別な道にしておきたいから。
鑑賞 >>>
旋頭歌(5・7・7・5・7・7)形式の歌で、『古歌集』から採ったとあります。『古歌集』については諸説ありますが、『万葉集』編纂の資料になった歌集で、飛鳥・藤原京の時代の歌を収めたもののようです。「岡の崎」は、岡の突き出た所。「廻む」は迂回する。「人な通ひそ」の「な~そ」は禁止。「ありつつも」は、そのままにしておいて。「避道」は、人が普通に往き来する道ではなく、人目を避ける特別な道。
巻第11、12の相聞歌の中には「道」に関わる歌が多く見られます。「避道(よきみち)」「直道(たたぢ)」という、男が女のもとに通う特別の道をあらわす言葉、道を往来して恋を告げる「使」、あるいは、道で偶然出会った女への惑い、「路行き占(うら)」という道での占いなど、その種類も多様です。さらには、多くの道が交わる「八十の衢(ちまた)」や、そこに立つ「市」など、「道」は万葉相聞歌の成り立ちにとって欠かせない空間だったといえます。
相聞歌
「相聞」とは『万葉集』の三大部立(ぶだて)である雑歌・相聞・挽歌の一つであり、基本的には巻第2・4・8・9・10・11・12・13・14の相聞の部に収められている歌約1,750首を指します。その中には肉親や朋友間の歌もありますが、男女の恋の歌が約1,670首(95%)を占めており、圧倒的多数となっています。
相聞の分類にも変化があり、巻第8・10では、季節によって「春相聞・夏相聞」のように分類しています。さらに巻第11・12では、目録に「古今相聞往来歌類之上・下」とあり、本文には相聞の記載はありません。さらに「相聞」部の歌を中心にそれに類するものを含めたいわば広義の「恋歌」というべきものが2,100首余りあり、全体の45%に相当し、『万葉集』の基層を成しています。