訓読 >>>
新田山(にひたやま)嶺(ね)にはつかなな我(わ)に寄そり間(はし)なる子らしあやに愛(かな)しも
要旨 >>>
新田山が他の峰に寄り付かずに一人で立っているように、寝てもいない私との関係を噂されて孤立しているあの子が、本当に愛しく思われる。
鑑賞 >>>
上野(かみつけの)の国の歌。「新田山」は、太田市北方の金山(かなやま)。標高236mながら、他から独立しているためよく目立ち、神聖な山とされていたらしいことが、東歌にもう1首ある新田山が出てくる歌(3436)から推測されます。「嶺」と「寝」が同音で掛詞。「なな」は打消し。「寄そる」は、関係があると噂になる。「間なる」は、孤立していて。中途半端などちらつかずの気持ちでいる、と解する本もありますが、佐佐木幸綱は、それだと「孤立する新田山のイメージが生きない」と言っています。また、素朴な味わいの中にも「この歌にはある華やかさがある。その源泉は何か。私は微塵も退廃の臭いがない、そんな愛の姿がここにあるからだと思う」と。