大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

【為ご参考】三大歌集の比較

万葉集

①歌を呪術とする意識が残り、対象にはたらきかける積極的な勢いが、力強く荘重な調べとなる。
②実感を抑えず飾らず大胆率直に表現する。簡明にして力強く、賀茂真淵は「ますらをぶり」と評する。
③日常生活そのままでないにしても、現実の体験に即して歌うことが多く、具象的、写実的で印象が鮮明。
④用語、題材についてすでに雅俗を分かつ意識が生じているが、なお生活に密着したものが比較的多く、素朴、清新の感をもって訴えかける。時に粗野。
⑤五七調で、短歌は二句切れ、四句切れが多く、重厚な調べ。後期には七五調も現れる。歌謡の名残をとどめ音楽的効果をねらった同音同語の反復もある。
⑥素朴な枕詞、序詞を多用。ほかに掛詞、比喩、対句を使用。
⑦率直に表現するため、断言的な句切れが多い。終助詞による終止、詠嘆「も」「かも」を多用。
 
古今集

①宗教や政治を離れ、歌それ自体が目的となり、洗練された表現により美の典型をひたすら追求する。
②感情を生のまますべてを表すことを避け、屈折した表現をとる。その婉曲さが優美繊細の効果を生む。
③日常体験から遊離した花鳥風月や恋・無常など、情趣化された世界を機知に富んだ趣向や見立てにより表現する。理知がまさり、時に観念の遊戯に陥る。
④優雅の基準にかなう題材を雅かなことばで詠ずるため、流麗であるが、単調となる弊がある。
⑤七五調で、三句切れが多く、流暢な調べとなる。
⑥掛詞、縁語の使用が多い。それらが観念的な連想を生み、虚実あるいは主従二様のイメージを交錯させ、纏綿たる情緒を楽しませる。掛詞がさらに進んでことばの遊戯となったものが物名であり、それで一巻をなす。ほかに枕詞、序詞、比喩、擬人法などを用いる。
⑦理知的に屈折した表現をとるため、推量、疑問、反語による句切れが多い。助動詞による終止が目立つ。詠嘆の終助詞は「かな」を用いる。
 
新古今集

①乱世の現実を忌避し、王朝に憧れる浪漫的な気分が支配し、唯美的、芸術至上主義的な立場に立つ。
②世俗的な感情を拒否し、「もののあはれ」という伝統的な感覚を象徴的な手法で縹渺とただよわせる。幽玄余情の様式を完成するが、時に晦渋に陥る。
③客観的具象的な世界を浪漫的な心情風景に再構成し、現実を超えた絵画あるいは物語のごとき世界をつくる。
④選び抜かれた素材を言語の論理性を超えた技巧によって表現し、幽玄妖艶の美、有心の理念を追求する。
⑤七五調で、三句切れが多く、また初句切れも目立つ。
⑥掛詞、縁語、比喩はかなり用いられるが、枕詞、序詞の使用は著しく減少する。古歌の句を借用しただけの単純な本歌取り古今集にもみられるが、新古今集では高度な表現技法にまで磨かれ、物語的な情緒を醸し出す象徴の手法として用いられる。
⑦体言止めを多く用いる。

 

大伴家持