大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

あらき田の鹿猪田の稲を倉に上げて・・・巻第16-3848

訓読 >>>

あらき田の鹿猪田(ししだ)の稲を倉に上げてあなひねひねし我(あ)が恋ふらくは

 

要旨 >>>

新たに開墾した田の稲、鹿や猪が荒らす田で刈り取った稲を、高床の倉に上げて古米にしたような、ああ、すっかり古びてしまった、私の恋は。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「夢の裏に作れる歌」とあり、左注に、忌部首黒麻呂(いむべのおびとくろまろ)が夢の中でこの恋の歌を作って友に贈った。目が覚めてからその友に暗誦させたところ、その通りの歌であったという、とあります。黒麻呂は、天平宝字2年(758年)に外従五位下、同6年(762年)に内史局図書寮(文書類の管理をする役所)の次官になった人。『万葉集』に短歌4首を残します。上3句は「ひね」を導く序詞。「あらき田」は、新たに開墾した田。「鹿猪田」は、猪や鹿が荒らす田。「あな」は、嘆息。「ひねひねし」の「ひね」は前年以前に収穫した稲で、干からびている、盛りが過ぎている意。「恋ふらく」は、名詞形。

 この時代、田は平地に作り、住居は山寄りに構えていましたが、新たに開墾する田は次第に山寄りとなってきました。そうした田は鹿や猪に荒らされやすく、稲もよくできなかったのです。