訓読 >>>
荒城田(あらきだ)の鹿猪田(ししだ)の稲を倉に上げてあなひねひねし吾(あ)が恋ふらくは
要旨 >>>
新たに開墾した田の稲、鹿や猪が荒らす田で刈り取った稲を、高床の倉に上げて古米にしたように、ああ、すっかり古びてしまった、私の恋は。
鑑賞 >>>
題詞に「夢の裏に作れる歌」とあり、左注に、忌部首黒麻呂(いむべのおびとくろまろ)が夢の中でこの恋の歌を作って友に贈った。目が覚めてからその友に暗誦させたところ、夢で贈った通りの歌であったという、とあり、集中、特異な事例です。黒麻呂は、天平宝字2年(758年)に外従五位下、同6年(762年)に内史局図書寮(文書類の管理をする役所)の次官になった人。『万葉集』に短歌4首を残します。
「荒城田」は、新たに開墾した田。「鹿猪田」は、猪や鹿が荒らす田。「倉に上げて」は、税として官倉に上げ納めて、の意。上3句は、そうして倉に納めた稲は、新米でありながら古びた干稲(ひね:前年以前に収穫した稲)のようになってしまうことから「ひね」を導く譬喩式序詞。「あな」は、嘆息。「ひねひねし」は、名詞の「干稲」を形容詞化し「ふるぶるし」の意に転じたもので、干からびている、盛りが過ぎている意。「恋ふらく」は「恋ふ」のク語法で名詞形。この時代、田は平地に作り、住居は山寄りに構えていましたが、新たに開墾する田は次第に山寄りとなってきました。そうした田は鹿や猪に荒らされやすく、稲もよくできなかったのです。