大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

隠りのみ恋ふれば苦し・・・巻第16-3803

訓読 >>>

隠(こも)りのみ恋(こ)ふれば苦し山の端(は)ゆ出(い)でくる月の顕(あらは)さばいかに

 

要旨 >>>

隠れて恋仲でいるのは辛いのです。山の端から出てくる月のように、そろそろ表沙汰にしてはどうかしら。

 

鑑賞 >>>

 題詞に「むかし男と美女がいた。姓名はわからない。両親に告げずに密かに交接した。その美女は二人の仲を親に知らせたくて、歌を作ってその夫に送った」とある歌です。「隠り」は、人目を忍ぶ、秘密の意の名詞形。「山の端ゆ」の「ゆ」は、動作の起点または通過点を示す語。「山の端ゆ出でくる月の」は、「顕す」を導く序詞。なお、左注に、この歌には男の答歌があったともいうが、まだ探し求めることができていない旨の記載があります。