大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

年の経ば見つつ偲へと・・・巻第12-2966~2968

訓読 >>>

2966
紅(くれなゐ)の薄染め衣(ころも)浅らかに相(あひ)見し人に恋(こ)ふるころかも

2967
年の経(へ)ば見つつ偲(しの)へと妹(いも)が言ひし衣(ころも)の縫目(ぬひめ)見れば悲しも

2968
橡(つるはみ)の一重(ひとへ)の衣(ころも)うらもなくあるらむ子ゆゑ恋ひわたるかも

 

要旨 >>>

〈2966〉紅に薄く染めた衣の色が薄いように、ほんの行きずりに見た人が、別れても恋しく思われる。

〈2967〉何年か経ったらこれ見て私を思い出してください、と妻が言った衣。その縫目を見ると、悲しくてたまらない。

〈2968〉橡の一重の衣に裏地がないように、あの娘の心も純真だから、よけいに恋しい。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」。2966の上2句は「浅らかに」を導く序詞。「浅らかに」は、染め色が薄いことと恋心が薄いことを掛けています。2967の「年の経ば」は、年が経ったならば。妻を亡くした、あるいは妻を置いて遠隔地に赴任した男の歌でしょうか、妻が縫ってくれた衣の縫い目を見て、妻の仕草を思い出し、恋しがっています。2968の「橡」は、クヌギの木で、どんぐりを煮た汁で衣を染めた橡染めは、庶民の着物に使われました。上2句は「うらもなく」を導く序詞。「うら」は着物の裏地と「心」の意味を掛けています。

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について