訓読 >>>
君が行き日(け)長くなりぬ山たづの迎へを行かむ待つには待たじ
要旨 >>>
あの方が行ってしまってから日数が経ってしまいました。いつまでもじっと待ってなどいられません、迎えに行きましょうか。
鑑賞 >>>
軽太郎女(かるのおおいらつめ)の歌。この歌は、磐姫皇后が夫の仁徳天皇を慕って詠んだとされる4連作(巻第2-85~88)との比較のため引用された歌で、「古事記に曰く」として次のような説明があります。「軽太子(かるのひつぎのみこ、允恭天皇の皇太子)が、妹の軽太郎女を犯した。そこでその太子を伊予の湯(松山市の道後温泉)に追放した。軽太郎女は恋しさに堪え切れずあとを追い、そのときに歌った歌」。
軽太郎女は衣通王(そとおりのおおきみ)または衣通姫(そとおりひめ)ともいい、絶世の美人で、艶色が衣を通して光り輝いていたというので、そう呼ばれます。「山たづの」は「迎へ」の枕詞。また、左注に、「この一首は古事記と類聚歌林とで内容が異なっていて作者も違う。そこで日本書紀を見てみると・・・」云々の記載がありますが、割愛します。
なお、衣通姫は、後世、和歌三神の一として、和歌山市の玉津島神社に祀られます。社地は衣通姫の生誕地と伝え、祠の側に、衣通姫の「産湯井」があります。女の子が生まれたとき、この井戸の水を産湯に用いると、美人になるといわれています。『古今集』序にも「小野小町は衣通姫の流なり」云々と記され、以後長く美人の例に引かれて、多くの文学の題材となりました。