大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

争へば神も憎ます・・・巻第11-2659~2661

訓読 >>>

2659
争へば神も憎(にく)ますよしゑやしよそふる君が憎くあらなくに

2660
夜(よ)並(なら)べて君を来ませとちはやぶる神の社(やしろ)を祷(の)まぬ日はなし

2661
霊(たま)ぢはふ神も我(わ)れをば打棄(うつ)てこそしゑや命(いのち)の惜(を)しけくもなし

 

要旨 >>>

〈2659〉人の噂にむきなって逆らえば、神様に憎まれるから、仕方がない、私が妻だといって噂されるあの方が憎いのではないのだから。

〈2660〉毎晩、あなた、どうかいらしてと、神威のあらたかな神社に行ってお祈りしない日はありません。

〈2661〉霊験あらたかな神様、今は私をお見捨て下さい。ええもう命の惜しいことなどありません。

 

鑑賞 >>>

 「寄物陳思(物に寄せて思いを述べた歌)」で、神に寄せての歌。2659の「争へば」は、逆らうと、言い争うと。「よしゑやし」は、仕方がない、どうなろうとも。「よそふる」は、妻になぞらえる意。人々の噂に逆らうと神が憎むと言っているのは、人々の噂は特殊な力を持っている、すなわち、噂は神の意志だと考えられていたようです。2660の「夜並べて」は、毎夜。「ちはやぶる」は「神」の枕詞。2661の「霊ぢはふ」は、神威が働く意で「神」の枕詞。「しゑや」は、ええい、もういい加減に。相手との関係がうまくいかず、どうやら自暴自棄になっています。

 

 

 

万葉歌の英訳

  • 春過ぎて夏来るらし白たへの衣干したり天の香具山(巻第1-28 持統天皇
    Spring has passed, and summer's white robes air on the slopes of fragrant Mount Kagu-beloved of the gods.
  • わが園に梅の花散るひさかたの天より雪の流れ来るかも(巻第5-822 大伴旅人
    Plum-blossoms scatter on my garden floor. Are they snow-flakes whirling down from the sky?
  • 世のなかを憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(巻第5-893 山上憶良
    In this sad world I feel small and miserable, but I cannot fly away as I am not a bird.
  • 天の海に雲の波立ち月の船星の林に漕ぎ隠る見ゆ(巻第7-1068 『柿本人麻呂歌集』)
    Cloud waves rise in the sea of heaven. The moon is a boat that rows till it hides in a wood of stars.
  • 海原の沖辺に灯し漁る火は明かして灯せ大和島見む(巻第15-3648 遣新羅使
    In the shoals of the vast sea brighten the lights the fishermen use for fishing, as I so long to see the Yamato mountains of my home.
  • 新しき年の始の初春の今日降る雪のいや重け吉事(巻第20-4516 大伴家持
    On this New Year's Day which falls on the first day of spring, like the snow that also falls today, may all good things pile up and up without pause or end.
 翻訳者:ピーター・マクミラン

各巻の概要