訓読 >>>
1822
我が背子(せこ)を莫越(なこし)の山の呼子鳥(よぶこどり)君呼び返せ夜(よ)の更けぬとに
1823
朝ゐでに来(き)鳴くかほ鳥(どり)汝(なれ)だにも君に恋(こ)ふれや時(とき)終へず鳴く
1824
冬ごもり春さり来ればあしひきの山にも野にもうぐひす鳴くも
要旨 >>>
〈1822〉莫越の山の呼子鳥よ、私の大事なあの人を呼び返してちょうだい。夜が更けないうちに。
〈1823〉朝、井堰に飛んで来て鳴く貌鳥よ、お前まであの方に恋いこがれているのか、終わる時もなく鳴き続けている。
〈1824〉冬が終わり春がやって来たらしい、山にも野にもウグイスが鳴いていることだ。
鑑賞 >>>
「鳥を詠む」歌。1822の「我が背子を」は「莫越」の枕詞。「莫越」は、所在未詳。「な越し」で、山を越すなという意味にとれます。「呼子鳥」は愛しい人を呼ぶ鳥で、カッコウではないかとされます。「更けぬとに」の「とに」は、うちに。夜が更けないうちに、莫越の山を越えて帰って行く夫に対しての心残りと、夜道の山越えを心配している、女の歌です。
1823の「ゐで」は、川の流れをせき止めたところ。「かほ鳥」は、カッコウか。「汝だにも」は、お前のような者さえも。「鳴く」は「や」の帰結。1824の「冬ごもり」は「春」の枕詞。「さり来らし」は、やって来るらしい。「あしひきの」は「山」の枕詞。
『万葉集』に詠まれた鳥
1位 霍公鳥(ほととぎす) 155首
2位 雁(かり) 66首
3位 鶯(うぐいす) 51首
4位 鶴(つる:歌語としては「たづ」) 45首
5位 鴨(かも) 29首
6位 千鳥(ちどり) 22首
7位 鶏(にわとり)・庭つ鳥 16首
8位 鵜(う) 12首