大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

帰りにし人を思ふと・・・巻第13-3268~3269

訓読 >>>

3268
三諸(みもろ)の 神奈備山(かむなびやま)ゆ との曇(ぐも)り 雨は降り来(き)ぬ 天霧(あまぎ)らひ 風さへ吹きぬ 大口(おほくち)の 真神(まかみ)の原ゆ 思ひつつ 帰りにし人 家に至りきや

3269
帰りにし人を思ふとぬばたまのその夜(よ)は我(わ)れも寐(い)も寝(ね)かねてき

 

要旨 >>>

〈3268〉三諸の神奈備山から一面にかき曇り、やがて雨が降り出した。あたりは霧に包まれ、風も吹いてきた。真神の原を、私のことを思いつつ帰っていった人は、無事家に着いただろうか。

〈3269〉帰っていった人のことを思い、その夜は寝るに寝られなかった。

 

鑑賞 >>>

 女のもとから、男が、夜のうちに、荒れ模様の天気にもかかわらず帰って行ったため、翌朝に消息を心配して贈った歌です。3268の「三諸の神奈備山」は、神が天から降りてきて宿る山。「ゆ」は、~から。「との曇り」は、空が一面に曇り。「天霧らひ」は、空一面に雲が広がって。「大口の」は「真神」の枕詞。「真神の原」は、明日香村にある飛鳥寺の南方一帯。大和国風土記によれば、明日香に老狼が出て、多くの人を食ったので、人々が畏れて、その狼の住む所を大口の真神の原と呼んだといいます。3269の「ぬばたまの」は「夜」の枕詞。窪田空穂長歌について、「小味な作ではあるが、味わい深いものである」と述べています。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について