大和の国のこころ、万葉のこころ

不肖私がこよなく愛する『万葉集』の鑑賞blogです。

あぶり干す人もあれやも・・・巻第9-1688~1689

訓読 >>>

1688
あぶり干(ほ)す人もあれやも濡れ衣(ぎぬ)を家には遣(や)らな旅のしるしに

1689
荒磯辺(ありそへ)につきて漕(こ)がさね杏人(からたち)の浜を過ぐれば恋(こほ)しくありなり

 

要旨 >>>

〈1688〉ずぶぬれになった着物を火にあぶって乾かしてくれる人がいるはずもいない。いっそ家に送ろうか旅路にいるという証拠に。

〈1689〉岩場に沿って船を漕いでください。杏人の浜を過ぎれば恋してたまらなくなるそうだから。

 

鑑賞 >>>

 『柿本人麻呂歌集』から「名木川(なきがわ)にて作れる歌」2首。名木川は、京都府宇治市南部を流れていた川ではないかとされます。1688の「あれやも」の「やも」は、反語。あろうか、ありはしない。「遣らな」の「な」は、意志・願望。この歌のように、衣を干すことが家妻の象徴のように歌われている歌は、巻第9の行旅歌群にも多く見られ、当時の男たちは妻のこの仕事に愛の姿を見出そうとしていたようです。1689の「荒磯辺」は、岩石が露わになっている海岸。「漕がさね」の「さ」は敬語、「ね」は、願望。「杏人の浜」は、未詳。名木川ではなく琵琶湖を航行している時の作で、舟子に言った言葉を歌にしたものとされます。

 

 

※ 参考文献はこちらに記載しています。⇒『万葉集』について