訓読 >>>
680
けだしくも人の中言(なかごと)聞かせかもここだく待てど君が来まさぬ
681
なかなかに絶ゆとし言はばかくばかり息の緒(を)にして我(あ)れ恋ひめやも
682
思ふらむ人にあらなくにねもころに心 尽(つく)して恋ふる我(あ)れかも
要旨 >>>
〈680〉ひょっとしたら人の中傷を耳にしたのだろう、待てども待てどもあなたは一向にやってこない。
〈681〉いっそのこと、きっぱり交遊を絶とうとおっしゃって下されば、こんなにも長くお慕い続けることもないのに。
〈682〉私のことを思って下さる人ではないようなのに、私の方では心尽してお慕い申し上げています。
鑑賞 >>>
大伴家持が交遊(男性の友人)と別れた時の歌。表現内容は、みな男女間の生々しい恋情を思わせる恋歌仕立てとなっています。女性の立場になって相聞風に詠んだもので、いわば虚構の恋歌です。680の「けだしくも」は、おそらく、ひょっとすると。「中言」は、中傷の言。「ここだく」は、これほど甚だしく。681の「なかなかに」は、むしろ、いっそのこと。「息の緒に」は、息が緒のように長く続くことから、命が続くかぎりにの意。682の「思ふらむ」の「らむ」は、未来の推量。「ねもころに」は、熱心に。