訓読 >>>
家人(いへびと)は道もしみみに通へども我(あ)が待つ妹(いも)が使(つかひ)来(こ)ぬかも
要旨 >>>
家々の人は道にあふれるほど行き来しているが、我が待っている彼女からの使いはやって来ない。
鑑賞 >>>
「正述心緒(ありのままに思いを述べた歌)」。「家人」は多くは家族を意味しますが、ここでは家々の人、里人。「しみみに」は、いっぱいに。この歌からは、逢引の約束は使いがとりつけたらしいことが分かります。あるいは、昨夜の逢引の素晴らしさを告げる使いである可能性もありますが、やはり今夜の逢引を期待する夕方の使いを待っているのでしょう。
巻第11と第12
巻第11と第12は「古今相聞往来歌類」という名が付いていて、巻第11が上巻、第12が下巻という構成になっています。各巻のそれぞれの部立ては以下の通りになっています。
(巻第11:古今相聞往来歌類上巻)
(1)旋頭歌 15首(柿本人麻呂歌集の歌・古歌集)
(2)正述心緒 47首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)寄物陳思 94首(柿本人麻呂歌集の歌)
(4)問答 9首(柿本人麻呂歌集の歌)
(5)正述心緒 104首
(6)寄物陳思 193首
(7)問答 20首
(8)比喩 13首
(巻第12:古今相聞往来歌類下巻)
(1)正述心緒 10首(柿本人麻呂歌集の歌)
(2)寄物陳思 14首(柿本人麻呂歌集の歌)
(3)正述心緒 100首
(4)寄物陳思 193首
(5)問答 26首
(6)羇旅發思 53首
(7)悲別歌 31首
(8)問答 10首
巻第11・12の歌は、巻第13と同じく全て「作者未詳歌」で、詞書もなく配列されている巻です。このためもあって、作成年代は、研究者の間でも確定していません。